和風のステーキやスパゲティ
問われ続ける「和食とは何か」
―三番目にあった「新しい和食」の提案というのはどういうことでしょうか。
和食には、先ほど申しましたような一つの概念があるわけです。だけど和食も今どんどん変わってきています。
白いごはんだけではどうも物足りなくなってきて、白いごはんの上に何かかけるとか、まぜるとか、ということも多くなってきています。
それからお菜も、洋風のお菜や中華風のお菜など、どんどん出てきていますね。
そういったものも全部許容した上で、和食とは何かを考えないといけないとすると、和食というものをこれから進めていくときの一つの原則とは何か。それはユネスコの提案書に書いた中身なんです。
―豊かな自然に根ざした多様な素材の味や旬を大事にするといった「自然を尊ぶ」という日本人の気質に基づいた食、ということですね。
非常に抽象的ですけれども、そうした原則がちゃんと守られていくということが、これから和食を展開していくときの枠になります。 規定されているのは枠組みでしかないんですね。個々の料理についてはまったくないわけです。そうするとその枠組みをちゃんと順守しながら、その中でどういう新しい工夫ができるかということが、これから問われてくるでしょうね。
和風ステーキというと、醤油と大根おろしがついてくるとか、和風スパゲティというと醤油味だったり味噌味だったり、あるいはカラスミを使ったりタラコが使ってあったりします。
あるいはそれらを箸で食べるとか、味噌汁がついてと、何かの要素をつけ加えることで、和食とはいえないかもしれないけども、「和風の世界」というのがあります。
そういう「和風の世界」についても、ユネスコに提案した和食の精神と特質というものを守りながら、許容できるか。あるいはどういう新しい提案ができるか。このあたりを考えていかないといけないと思います。
従来のものをそのまま守っていくというのではなくて、原点と枠だけは外さないで、その枠の中で新しい和食のレシピをつくっていく必要がある、ということになってくるでしょうね。
「いい日本食」の11月24日を
「和食の日」に定めて新聞広告
―和食会議では、11月24日を「いい日本食」という言い方にちなんで「和食の日」に定めました。今後の抱負についてお聞かせ下さい。
石毛先生(石毛直道・国立民族博物館名誉教授)が「食というものはだれかがどうしろと言っても、そうなるものではない」と、しょっちゅう言われます。
なるようにしかならないということでいえば、お手上げなんですけども、こうやって和食の無形文化遺産登録ということができて、けっこう和食に対する認知度は高くなってきたと思います。
昨年の「和食の日」の11月24日には、企業が協賛して、全国紙と地方紙を含めて四十四の新聞で全頁広告を打ちました。「和食というのがいま話題になっているんだな」ぐらいのことは、みなさん気づかれたと思います。
ようやく認知されてきたというだけなので、これからも地道に続けていかないといけないでしょう。
それで和食が復活するかといわれると、難しいでしょうが、放っておけばもっと急激になくなってしまうところを、われわれが少しでもそういう努力を重ねることで、和食を食べる回数が増えるとか、和食を食べてみようという気持ちが起こるとか、そういうことが国民的なレベルで始まってくるといいなと思っています。
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熊倉功夫(くまくら・いさお)
1943年東京生まれ。65年、東京教育大学文学部史学科卒業。文学博士。筑波大学教授、国立民族学博物館教授、林原美術館館長などを歴任。2010年に静岡文化芸術大学学長に就任、現在に至る。「和食」文化の保護・継承国民会議会長。著書に「日本料理の歴史」(吉川弘文館)、「茶の湯といけばなの歴史 日本の生活文化」(左右社)、「後水尾天皇」(中公文庫)、「文化としてのマナー」(岩波書店)、「現代語訳 南方録」(中央公論新社)、「茶の湯日和 うんちくに遊ぶ」(里文出版)などがある。