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【免疫力UP情報】食行動は変えられるのか①

【免疫力UP情報】
昨今、世間を騒がす新型コロナウイルス。
こちらのコーナーではコロナに負けない身体づくりのための情報を、
過去のむすび誌や正食出版発行書籍から抜粋してご紹介致します。
第7弾は「むすび誌2017年6月号」より「食行動は変えられるか(山中祥子先生のインタビュー)」です(全2回)。
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高校生で心理学に興味をもつ 管理栄養士から大学院へ進学

画用紙に木の絵を自由に描かせて、実や葉のつき方、枝ぶりなどからその人の心理状態や性格を診断する「バウム・テスト」と呼ばれる手法があります。山中さんは高校生のときにそのテストのことを知って心理学に興味をもち、同志社大学で実験心理学を中心に学びました。
 大学を卒業後、いったん就職し、半年間の留学を終えて帰国した日本では、婚約者だった貴乃花と破局した宮沢りえの〝激やせ〟が大きな話題になっていました。
 山中さんは、明らかに摂食障害を起こした若い女優の姿を見て、「失恋がきっかけで摂食障害になっている人は、意外に多いのかもしれない」と思ったといいます。
 その頃に自身の食生活も見直そうと考えた山中さんは、神戸松蔭女子学院短大で栄養学を学び始め、最終的に母親と同じく管理栄養士になりました。
 食行動学という研究に取り組んだきっかけは、たまたま神戸松蔭女子学院大学の生活学科で1年間、助手として勤務した際に、「大学で学んだ心理学と栄養を生かして、大学院でさらに勉強してはどうか」という同じ生活学科の教授からのアドバイスでした。
 「いまの私があるのは、心理学と栄養学の二つの領域を専門にしているからこそだと思いますし、本当に感謝しています」

さまざまな要因が絡む食行動 指導したことと反対の結果も

 
食行動学というと仰々しく聞こえますが、山中さんによると心理学研究の中では「あまりメジャーではない」そうです。
 というのは、食べもの一つをとってもさまざまで、いろんな要素が含まれて「要因の統制がしにくい」という難しさがあるからです。
 当然、人の食行動を変えることも一筋縄ではいきません。
 例えば、糖尿病患者に対して、「ケーキを食べると血糖値が上がりすぎるので、ちょっと控えて下さいね」と言ったとします。
 ケーキを我慢しようとすればするほど、ケーキが食べたくなる―。似たような経験はだれもが一度はあると思います。かなり意志の強い人なら我慢することができるかもしれませんが、たいていは、逆に我慢しようとすればするほど欲求が高まってしまい、我慢することができません。
 これは、心理学で【抑制の逆説的効果】と呼ばれるもので、「『シロクマのことを考えないで下さい』と言われると、シロクマのことが頭から離れなくなってしまう」という、米国人心理学者のウェヴナーが行った有名なシロクマ実験によって示されたものです。

高学歴ほど多い摂食の悩み しかし食行動は変えにくい

 
山中さんが、どうすれば食行動を変えられるのか、と考えるのには、切実な背景もありました。
 食行動がおかしくなり、進行するとだんだんと病的な状態に陥ります。その一つが摂食障害ですが、山中さんは「摂食障害は疾病として扱われるため、医学分野での研究が多いのです」と話します。
 摂食障害は、深刻な状態になるとときには生命にかかわりますが、医療機関で治療への道が開けます。
 ところが、たとえ摂食障害であっても医療機関へ行かない限りは、摂食障害と診断されることはありません。このような「グレーゾーン」の人たちは現実にはかなり多く、一人で苦しんでいるのが現状です。
 「実際、私がある女子大学で学生のデータをとったときでも、摂食障害傾向の強い子たちが30%ぐらいいました。ふつうに調べても10%くらいいると思います。先進国ではとくに高学歴の女性に多いと言われています」
 「そんなにもたくさんの女性が食べることに悩んでいるのか」と驚かれるかもしれませんが、「現在は、過食の中でも、単に食べすぎるのではなく、過食と嘔吐を繰り返すパターンの患者さんが多くなっています。この場合、その人は太ってもいないしやせてもいないしで、外見からではわかりにくい」のです。
 摂食障害など病気と診断された人たちへの対応はもちろん、近い将来にそうなる可能性のある大勢の予備軍の人たちに対しても、目を向けていく必要があります。
 ところが、「健康のために」といくら説明しても、「それは若い人には通じません。たとえ若くなくても、不具合が出ていない人には伝わらない。そのことは管理栄養士時代に嫌というほど思い知りました」というのが現実でした。
 そこで山中さんは「できれば病気ではない人の食行動も含めて変えたい」と考えたのです。

意識できる「顕在的態度」と意識できない「潜在的態度」

 
では、具体的にどうすれば人の行動は変えられるのでしょうか。
 私たちの行動は「態度」によって決定づけられます。その態度には、意識できる【顕在的態度】と意識できない【潜在的態度】があり、両方の態度が行動に影響します。それぞれの特徴を山中さんは以下のように指摘しました。

【顕在的態度】
 ・いろんな情報を吟味、熟慮して、論理的な思考で結論が導かれる
 ・意識して途中で変えることができる。意図的である
 ・情報の精査に時間がかかるので非効率的
 ・(一例として)ケーキを見ると、「生クリームたっぷりで高脂肪・高カロリー」と認識し、「いまは減量中だから食べてはいけない」と、我慢する行動に出る

【潜在的態度】
 ・意識できない、直感みたいなもの
 ・コントロールしにくい
 ・非常に処理が速く効率的
 ・(一例として)ケーキを見ると「快」の感情が生じて「おいしそう」と思い、「食べたい」という欲求が引き起こされ、食べるという行動が起きる

 これまでは、顕在的態度ばかりに訴えることが中心でした。しかし個人の意識に直接はたらきかけて理想の行動をうながすのは限界があり、シロクマ実験が示すように、ときには逆効果さえ招きます。
 そこで山中さんが注目したのが潜在的態度です。



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山中祥子(やまなか・さちこ)
池坊短期大学准教授。博士(心理学)。神戸松蔭女子学院大学人間科学部と京都橘大学人間発達学部でそれぞれ非常勤講師も務める。1991年、同志社大学文学部心理学専攻卒業。3年間の民間企業勤務のあと半年間、フランスに留学。97年に神戸松蔭女子学院短大入学。出産、休学を経て、2000年に同短大生活科学科食物栄養専攻卒業、栄養士免許取得。2002年に管理栄養士免許取得。05年に神戸松蔭女子学院大学生活学科助手を務めたあと、神戸女学院大学大学院人間科学研究科博士前期課程修了、同志社大学大学院文学研究科博士後期課程修了。池坊大学には10年に着任し、製菓衛生師を目指す学生に公衆衛生学、食品衛生学、食品学などを指導している。

  • 2020年08月18日 17時08分更新
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