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【健康情報】2019年4月号 タネと私たちの暮らし①

・種子を守るアドバイザー 印鑰(いんやく)智哉さん

種子法廃止の背景は

種子法廃止といわれても、それがどんな意味をもつのか、よくわらからないという人も多いと思います。
そこで最初に、日本の種子(たね)を守る会事務局アドバイザーとして全国を講演で飛び回っている印鑰(いんやく)智哉さんの解説から紹介します。

気候風土に合った食生活を
 主催団体の「子どもの食・農を守る会伊那谷」は、種子法廃止をきっかけとして、日本の農業と食の安全を考えていこうと結成され、これまで二回、講演会を開催してきました。
 飯田文化会館の大ホールで開かれた講演会の冒頭、代表の関島百合さんは「種子法は、『おいしいもの、安全なものを食べたい』という願いを長い間、陰でずっと支えてきました。
種子法廃止は、日本という国が国民の食といのち、それにつながる農業を守ることを放棄した結果ではないでしょうか」とあいさつ。

 関島さんは、長野県での種子条例制定の動きを歓迎するとともに、「グローバル企業に支配される、いのちを結ばない食ではなく、日本各地の気候風土に合った食生活と農業がこれからも続くよう願います」と呼びかけました。
 続いて、共催したJAみなみ信州の代表理事が、アメリカ抜きの11カ国で昨年末に発効したTPP(環太平洋経済連携協定)や2月発効の日本とEUとのEPA(経済連携協定)、日米FTA(自由貿易協定)交渉など、農業を取り巻く情勢がますます厳しくなる中で危機感を訴えました。
 一方で、「いま国際社会は持続可能な社会の実現を目ざしています。そのためには、伊那谷の恵まれた自然環境を子や孫の代にしっかりつないでいくことが重要。
今後も安全な食の生産に努力したい」と、市民の理解と協力を求めました。

微生物が栄養や土をつくる
 印鑰さんはまず、微生物と植物の関係から話し始めました。
 野菜など植物のもつミネラルといったさまざまな栄養は、もともとは岩石に含まれていたものです。
しかし、植物自体はそうしたミネラルを直接、吸収することはできず、土壌微生物を介して得ています。
 一方、植物は光合成によって二酸化炭素から生成した炭水化物の4割近くを根から土の中に放出します。その放出された炭水化物が、微生物たちのえさになるのです。つまり植物と微生物は共生関係にあります。
 その共生関係の場となっているのが、根っこの周りにある白いひげ根のようなもの。実はこれは菌根菌と呼ばれる微生物が集まってできた菌根菌糸です。
 菌根菌糸からはネバネバとしたタンパク質が分泌され、そのおかげで土が団粒状になって、水や栄養をたくわえられるようになります。
 ところが、化学肥料を投入して栄養が与えられると、植物は土中に炭水化物を放出しなくなり、共生関係が衰えてしまいます。
 すると土は硬く乾いた状態になり、風で簡単に運ばれたり、大雨になると流出したりします。さらに殺菌剤などの農薬によって、病原菌を防いでいた微生物のバリアもなくなります。


※土の中にある白いひげ根のような菌根菌糸が、植物に栄養を与え、豊かな土壌をつくる=印鑰氏提供

組み換え作物の生産性疑問
 1960年代からの「緑の革命」以降、世界的に農薬や化学肥料の多投が続きました。
ほか森林破壊や過放牧・過耕作などもあり、食べものや水、石油や石炭などのエネルギーといったさまざまな恩恵をもたらしてきた豊かな土壌が、急速に失われています。
 そこで国連は2015年を国際土壌年とし、地球上の生命を維持する要である土壌を守っていこうと国際社会に呼びかけました。
 印鑰さんによると、植物と微生物の共生関係によってできる豊かな土は、厚さ1センチになるには少なくとも100年はかかるということですが、現状では「最悪、あと60年で地球上から土がなくなってしまう」という危機的な状態です。
 さらに、農薬とセットになった遺伝子組み換え作物の拡大が、問題を大きくしています。
 「遺伝子組み換え種子は、生産性が高くなると宣伝されますが、グローバル企業は地域に合ったタネをつくってくれません。例えばアメリカでつくったタネを、南米やインド、アフリカでも栽培するので、生産性が上がるとは限らないのです」
 実際、印鑰さんがかかわってきた、遺伝子組み換え大豆の一大生産国であるブラジルで、大豆の生産性を比較したところ、遺伝子組み換え大豆よりも非遺伝子組み換え大豆の方が生産性が高かったのです。
 しかも、遺伝子組み換えの大豆やトウモロコシは、タンパク質や微量ミネラルが極端に減り続けているというデータもあります。

競争力強化や民活導入で
 生産性や栄養面からも疑問のある遺伝子組み換え種子ですが、印鑰さんによると、2011年時点で、世界の種子市場の7割近く、農薬市場の8割近くを、多国籍企業である遺伝子組み換え企業4社で独占しているそうです。
 「農業をするためには、遺伝子組み換え企業からタネを買わないといけなくなっている国もあります」
 世界的に遺伝子組み換え種子が拡大する中で、日本では米・麦・大豆については、種子法で守られてきたため、国内で生産されるそれらのタネは基本的に問題はありませんでした。
 ところが、国の規制緩和の流れを受け、「国際競争力の強化」「民間活力の導入」といった理由から、一昨年4月の国会で種子法廃止法案が可決成立し、昨年4月1日で廃止されました。
 民間企業が参入した場合、農家が自家採種できるタネではなく、F1(ハイブリッド)種や遺伝子組み換えのタネに置き換えられることが予想されます。
 そうなると、価格の高い民間のタネでは農作物の販売価格が高騰する、作物の品種が少なくなり気候変動や病害虫などによる被害をより受けやすくなる、企業が指定する化学肥料や農薬を使った栽培方法でしか農業ができなくなる—といった問題が起きることも考えられます。
 種子法で守られていなかった日本の野菜のタネは、以前はすべて国内産でしたが、現在は9割が海外で生産され、ほとんどがF1種です。
 「日本のタネの企業は、まだ遺伝子組み換え企業に買収されていません。遺伝子組み換えのタネは一つもありませんが、生産委託先は遺伝子組み換え企業ということが多くあり得ます」

種子法とは
 正式名は「主要農作物種子法」。対象となる主要農作物は、稲、麦(大麦、はだか麦、小麦)、大豆。サンフランシスコ講和条約発効後、主権を取り戻した日本で、それら主要農作物の種子の品質を管理し、優良な種子を安定的に供給することを都道府県に義務づけた。しかし、「技術向上により、種子の品質は安定している」「多様なニーズに対応するため、民間の力を借りる必要がある」などの理由で廃止された。種子法廃止により、都道府県の試験場で品種改良を進める予算や態勢の縮小、外資の参入などが懸念されている。
※参考資料 「種子法廃止でどうなる?」(農文協編)

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印鑰智哉(いんやく・ともや)
アジア太平洋資料センター(PARC)、ブラジル社会経済分析研究所(IBASE)、Greenpeace、オルター・トレード・ジャパン政策室室長を経て、現在はフリーの立場で世界の食と農の問題を追う。ドキュメンタリー映画『遺伝子組み換えルーレット』(2015年)、『種子ーみんなのもの? それとも企業の所有物?』(2018年)日本語版企画・監訳。『抵抗と創造のアマゾン-持続的な開発と民衆の運動』(現代企画室刊)。共著「アグロエコロジーがアマゾンを救う」。