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【免疫力UP情報】農とつながる多様な生き方を②

【免疫力UP情報】
過去のむすび誌や正食出版発行書籍から抜粋してご紹介致します。
第24弾は「むすび誌2015年9月号」よりご紹介します。(全3回)。
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老人はお荷物ではなくお宝 成長か持続かで食べ方に差

 「名園といわれる日本庭園は、みんな時間のたったもの」と話す進士さんは、一例として、苔寺で有名な京都・西芳寺の庭園を挙げました。
 もともとは鎌倉末期から室町初期の臨済宗の僧である夢窓疎石(夢窓国師)が開基し、天下の名園として評判を呼んでいましたが、無住になって荒れて、白砂を苔が覆うようになりました。ところがその苔むしたところに、新たな然びの魅力が発生した、というわけです。
 「然び」という時間美の感覚が生まれた背景には、あらゆるものが変化しやすい高温多湿のモンスーン気候という自然条件もあります。
 「日本の美は、造形の美から時間の美に転換しました。そこが日本のよさ、すごさ」
 とすれば、人間についても「年を取っている人を大事にしよう」というのが本来ですが、七一歳の進士さんは「年を取ると、自信を失って、いかにもだめになったように自覚させるのが、今のマスコミや政治。これは大間違い。然びなのでお宝なんです」と笑い飛ばしました。
 「高齢者を生かす社会制度や労働マーケットといったものをちゃんとつくるべき。そういうので(正しく食べるという意味での)正食は正しい。死ぬまで食べていかないといけないんだから。そのときにどういう食べ方をするか。若い人と老人の食べ方、成長させる食べ方と持続させる食べ方は全然違う」
 常に海外のより先進的なもの、より文明的なものを求めるばかりではなく、日本人が培ってきた足元の伝統文化にも目を向けていくことも大切と感じさせられます。

生物や水がつながることで 都市や国土も健全でいられる

 進士さんは、最初は高分子化学の研究者でしたが、ランドスケープ(景観)に興味が移り、国立公園の自然保護や観光、日本庭園、都市計画、農村計画、国土計画、都市緑化など、さまざまな分野で活躍してきました。
 ところが、研究者の一種の業界ともいえる学会では、一つの研究をひたすらに続けることが重視され、いろんなことに手を出すほど評価が低くなる傾向があるようです。
 進士さんの場合は、理想的な空間をつくるという庭園から出発し、それを都市や農村、そして国土へと広げていきました。すると、健全な都市や国づくりのためには、水や緑、生きものなど、自然とネットワークされていることが欠かせないと気づきました。
 「みなさんのからだは、神経と血液がからだ中に見事に行きわたっているから健全でいられる。人間の健康と同じように都市の健康も、緑地がつながっていれば生きものも移動できるし、水も地下水も移動できる。途中で切れると困りますが、大阪は緑地がたまにしかなくて、健全ではないですね」
 ものごとをそんなふうにトータルにとらえ、考えることが必要なはずなのに、分業化された企業の社員のように、研究者の研究対象も細かく分類されています。
 しかし、人間はもともといろんなことができる能力を備えて生まれてきたはずだと、進士さんは考えています。それが、学校での偏差値教育や適性検査による職業選択などで、ほかの人よりすぐれた能力だけしか生かされないようになりました。

人は本来百姓=トータル・マン 農は科学、技術、そして芸術

 「われわれ人間は本来、百姓であった。英語でいえばトータル・マンです。何でもやれる」
 「百姓」の百は「たくさん」、姓は昔は「職業」を表していたそうです。「だから百姓は、百の能力をもっていないとできない職業です」
 稲をつくるのは作物学、野菜をつくるのは園芸学、味噌や醤油をつくるのはバイオテクノロジー。「ただし、ハイテクノロジーではないから遺伝子組み換えなどはしない。微生物の力を使って、食品のもっともすばらしいところを引き出してきた。農民は全部バイオテクノロジストだった」
 どういう作物をいつ植えていつ収穫したらいいか、土を舐めてみて「この土にはカリが足りない」などと判断する能力が、百姓には求められます。「だから農民には相当の知識力がないといけない。と同時に、農業をやるとすべての能力が発揮できる」。技術だけではなく、農には農民文学や農村芸能など、人文系の能力も引き出す力があります。
 進士さんによると、米国ニューヨークのセントラルパークを設計したオルムステッドは、造園家(ランドスケープ・アーキテクト)は、サイエンティフィック・ファーマー(科学的百姓)とソーシャル・プランナーの二つの能力がないといけないと言ったそうです。
 「科学的百姓とは、百姓のように自然のことをよく知って、なんでもわかっているということ。ソーシャル・プランナーとは、世の中はどうあるべきか、これからどういう時代になるのか、人びとは何を求めているのかがわからないといけない」
 「『農』は人間の衣食住全般にわたる科学であり技術であり芸術である」というのが、進士さんの持論です。
 多様性をもつ農と、本来が多様な生き方をもつ人間とのコラボレーション(共同制作)こそは、最高の芸術といえます。
 進士さんは、アメリカの心理学者、マズローの有名な欲求階層説を引用し、「真善美は人類共通の究極の目標。私は農もアートにしたいと思います」と力説しました。

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進士五十八(しんじ・いそや)
1944年京都生まれ。東京農大農学部造園学科卒業。農学博士。専門は造園学、環境学、景観政策、環境計画。東京農大元学長、東京農大名誉教授。日本造園学会長、日本都市計画学会長、東南アジア国際農学会長などを歴任。著書は「アメニティ・デザイン」「風景デザイン」「農の時代」(以上、学芸出版社)、「日比谷公園」(鹿島出版会)、「日本の庭園」(中公新書)など多数。2007年紫綬褒章受章。
  • 2022年02月17日 15時24分更新
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