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【健康情報】2019年4月号 タネと私たちの暮らし④

多様性を維持して健康に

・農業研究者 吉田太郎さん

 講演会で長野県の種子条例などについて報告した農薬研究者の吉田太郎さん(長野市在住)。昨年末に、印鑰さんの話や国内外のさまざまな動きを折り込みながら、環境・農業・食・健康を関連づけてひとつながりの視点からとらえた画期的な新著『タネと内臓』が出版され、注目されています。

アグロエコロジーに活路
 吉田さんは、旧ソ連による経済封鎖を機に有機大国となったキューバをルポした『200万都市が有機野菜で自給できるわけ』を2002年に著し、大きな話題になりました。
 新著では、FAO(国連食糧農業機関)も唱えるアグロエコロジーという農業のあり方を提起しています。
 アグロエコロジーというのはあまり聞き慣れませんが、同書によると、農場での水や養分の循環を促進して化学肥料を減らし、生物多様性を維持することで害虫を自然に防除して、農薬も減らします。
 「ポイントは農業生態系内における生物の相互作用を生かすこと」(同書)です。
 認証基準のある有機農業とは違い、各地の生産者が自然条件に合わせ、有機農業を含むやり方を模索して、それぞれの地域で独自に取り組みます。
 環境に負荷をかけ続ける工業化された農業ではなく、生態系の維持を目ざすアグロエコロジーを担うのは、地域に密着した小規模家族農業でもあるのです。
 そして、微生物が育む豊かな土壌で、多様性のあるタネから実った栄養に富んだ作物は、私たちの腸内細菌も豊かにして、健康をもたらしてくれるのです。

1型糖尿病で緊急入院
 実は吉田さんには苦い体験があります。
 三年余り前に突然、1型糖尿病と診断されて緊急入院。以来約一年間、一日に四回インスリンを注射する生活を余儀なくされました。
 大半が幼少期に発症する1型糖尿病に中年になってかかるのは、わずか100万人に1人。暴飲暴食した覚えのない吉田さんは、「なんで五〇代でいきなり?」と不思議がりました。
 原因についてある会合で吉田さんは「たぶんリーキーガット症候群。グリホサートと遺伝子組み換え食品にやられたと思いました」と打ち明けました。
 グリホサート(ラウンドアップ)は、多国籍バイオ企業のモンサント(バイエルが昨年6月に買収)が開発し、遺伝子組み換え種子とセットで使われる除草剤です。
 グリホサートは、植物がアミノ酸を合成する「シキミ酸経路」を壊して生長を止めることで、枯れさせます。
 遺伝子組み換え作物はグリホサートに対して耐性があるので影響を受けない、人間を含む動物はシキミ酸経路がないので安全だというのが、モンサントの説明ですが、シキミ酸経路をもつ土壌微生物を殺してしまえば、遺伝子組み換え作物を含む植物は、マンガンなどの土中のミネラルを吸収できなくなります。
 「遺伝子組み換え作物はミネラルに乏しい」というデータがあるのは、そうした理由が考えられます。そして、ミネラルの不足や欠乏は、神経の機能や代謝などに影響し、糖尿病の原因にもなります。
 自給率の低い日本は、遺伝子組み換えの大豆やトウモロコシを大量に輸入し、世界有数の遺伝子組み換え消費国なのです。

有機生活に努めて改善
 昨年8月、米国サンフランシスコの裁判所が、「除草作業で使用したグリホサートが原因で悪性リンパ腫を発症した」という学校の用務員だった男性の訴えを認めて、モンサントに約三二〇億円の支払いを命じました。
 その判決を受けてイギリスでは、流通大手がグリホサートの販売を見合わせる方針の検討を始めたといいます。
 ところが、日本ではホームセンターやネット通販などで手軽に買うことができ、2017年末にはひまわり油で残留基準値が400倍などと大幅に規制緩和されました。
 一方、吉田さんは、外食や加工食品をできるだけ控え、薬をやめて有機作物だけの食生活にしてみると、便が変わり、インスリン注射によって増えていた体重が二週間で一気に一〇キロも落ちて、血糖値が正常に戻りました。
 「アグロエコロジーや伝統農業というと、大昔に戻ると感じられるかもしれませんが、そうではありません。むしろ地域の中にある豊かな食文化や、タネの保存方法とか微生物の共生といったことこそ、どんどん掘り下げないといけないフロンティアなのです」


『タネと内臓』吉田太郎∥著

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吉田太郎(よしだ・たろう)
1961年東京生まれ。筑波大学自然学類卒。同大学院地球科学研究科中退。キューバの有機農業、医療の他、アグロエコロジーや伝統農業の著作を執筆してきた。大病を契機に鎌倉で座禅会や松本での座禅断食会にも参加し、タネと内臓のつながりを自らも探求している。最新の著書に『タネと内臓』(2018、築地書館)がある。長野県在住。